読みもの
男性社会や既成概念に負けないで。自分を信じ、世界を切り開く勇気をもらえる ー 「ココ・アヴァン・シャネル」
「装うことは素敵だけれど、装わされることは惨めだわ」。シャネル創業者であるガブリエル・ボヌール・シャネルの言葉です。多くの裕福な男性、実業家、芸術家との恋に身をゆだねながら87歳でその生涯を閉じるまで誰の妻にもならなかった彼女。彼女の言葉は男性に気に入られるために腰のくびれと胸を強調した装いを拒否し、「装わされる」ことへのアンチテーゼをその人生で体現した意志が垣間見えます。今回ご紹介する「ココ・アヴァン・シャネル」は女性をコルセットから、また男性に養われて生きる不自由さから解放するために亡くなるその日まで働き続けたシャネルの半生が描かれています。
時代は1900年代初頭、孤児院で育ったシャネルが大人になり、社交界に足を踏み入れた時、女性は一様に大きな羽根付きの華美な帽子をかぶり、くびれを作って胸を目立たせるファッションに身を包んでいました。それを見て「まるで銀食器ね」「締め上げすぎて倒れそう」「カップケーキみたい」と毒づくシャネル。作中でもプレゼントされた華やかなドレスを脱ぎ捨て、自ら男性用のシャツを裁断して独自のセンスでシンプルな服を作り上げていくシーンはまさに「カッコいいオンナ」。封建的な装いを「時代の反逆者」として破り、現代の女性のファッションを決定づけたシャネルの人間としての魅力が十分に表現されています。
男性の気を引くばかりのファッションからエレガントでありながら活動的で実用的な服を作った、「怒り」ともいえる創作意欲が革新的なファッションを築き、お馴染みの「シャネル・スーツ」を生み出したのでしょう。ちなみに仕事を愛する彼女は日曜日が嫌いだったのだそう。お店が休みになって退屈だから日曜日が嫌いとは、なかなか共感はできないですね。
シャネルと言えば多くの名言や逸話が多いことでも有名。ある大富豪から宝石をもらった時は「宝石で私を買おうとするなんて」と踵で踏みつぶしたことも!生涯彼女がアクセサリーとして愛したものは、数連のパールに合わせたイミテーションビジュー。これはフェイクの宝石です。偽物であるがゆえに「反抗的で刺激的」と感じ、本物より美しいと主張したといいます。たくさんの宝石のプレゼントはアトリエに持ち帰って次のデザインに活かし、そこでまた他の追随を許さないファッションを作り出す…。潔いほどの意志と斬新なアイデア、この両方があってこそ現在の「CHANEL」があると言っても過言ではないでしょう。
戦時中はお店を閉じた彼女が再びファッションの世界にカムバックしたのは70歳を過ぎてから。仕事を生きがいにし、エレガントな装いにこだわり続けた彼女は1971年の1月のある晩に亡くなるその日まできっちりとお化粧をし、お決まりのシャネルスーツに身を包み、香水までふりかけて仕事をしていたのだといいます。奇しくも亡くなったその日は彼女の嫌いな日曜日でした。
今回主役を務めたのは「アメリ」で主役、「ダヴィンチ・コード」でヒロインを演じたフランスの実力派女優、オドレイ・トトゥ。本作で驚かされるのが若いころの彼女とそっくりだということ!自分の信じる道を行く率直な性格で、少女のような儚さがあるのに生まれ持ったコケティッシュな雰囲気…。それがうまく表現され、女性のエレガントな色気とは何かを考えさせられます。
また本作で印象的なのが時々見せるシャネルの当惑した瞳です。孤児院で他の女の子たちの目線を感じる時、社交界ではしゃぐ女性の姿を見ている時、お城のような貴族の館での日常の時間…。当時の既成概念や豊かさに触れる時、彼女の眼は戸惑いに満ちています。それは自分の価値観や信じるものとの違いをあからさまに見せつけられた戸惑いにも映ります。
多くの戸惑いや不自由を感じながらも、自分の才能を信じ、世界を切開いていったシャネル。現代のデザイナーたち、多くの女性にとって永遠のミューズである彼女の創作の軌跡を知ることだけではなく、彼女が現代の女性のために残してくれたもののあまりの大きさに驚くばかりです。見どころは1900年代初頭のトラディショナルな装いや現代に通じるモードファッションだけではありません。ココ・シャネルが男性社会や既成概念に立ち向かっていく姿は、様々な抑圧と役割に縛られる現代の女性をきっと励まし、勇気をくれることでしょう。
ココ・アヴァン・シャネル