読みもの
ジョゼと虎と魚たち
公開当時、主演の妻夫木聡さんがこんなことを言っていたのをよく覚えています。「これは、本物の恋愛映画です」
この映画を特に女性にオススメするポイントは、恋愛をして、それを失うことによって大きな喪失感を得ながらも、前を向いて生きていく「ジョゼ」の姿に、女性の強さと美しさを見ることが出来るからです。
妻夫木聡さん扮する大学生の恒夫は、要領がよく、都合の良いセックスフレンドまでいて、世渡り上手な普通の大学生。
そんな恒夫が、ある日、足が不自由な孤独な女の子と出会う。池脇千鶴さん演ずる、自称・ジョゼ。ジョゼという名は、フランスの作家、フランソワーズ・サガンの小説の登場人物の名で、本名はくみ子。
一癖も二癖もある文学少女のジョゼに、恒夫は「自分にはない、何か」を感じ、惹かれていくのです。
ジョゼが共に暮らしている祖母の死をキッカケに、同棲を始める恒夫とジョゼ。若い恋人同士の、甘く楽しい日々。
身体が不自由なジョゼを、丸ごと引き受けて生きていこうと思った恒夫は、ジョゼを家族に紹介しようと車の旅に出ます。
けれど、恒夫はもう少しの所で引き返してしまうのです。
そんな自分に絶望して、恒夫はジョゼの膝にしがみついて子どものように泣きじゃくる。恒夫は優しい男だったが、どこまでも弱い男だったのです。
その後、泊まったラブホテルのベッドの上で、ジョゼは隣でスヤスヤと眠る恒夫を見ながら思う。孤独に生きて来た時は分からなかった、「人を求める」感情。「人とずっと一緒にいたい」という感情。自分の殻に閉じこもっていた頃ならば、人を失うという「喪失感」を知らずに生きていくことが出来たことに、ジョゼは改めて気づき、恐怖を覚えるのです。
それから数年後、恒夫はジョゼの元から去って行く。
すると恒夫は、その足で、新しい彼女に会いにいく。そして、その彼女と楽しくデートに行くはずが…。
恒夫は路上にうずくまり、人の目もはばからす、子供のように泣くのです。
ジョゼを家族に紹介することが出来なかった、あの日と同じように。
そして、一方のジョゼは。
真新しい電動車椅子に乗り、颯爽と町に出て行く。
車椅子は、恒夫が「買おう」と言っても、決して買おうとしなかった物。
ジョゼがそれを拒んだのは、恒夫の背中にずっと背負っていて欲しかったから。けれど、恒夫に甘えていたジョゼは、もういないのです。
恒夫という男は、新しい彼女の前で昔の恋人を思って号泣するような、どこまでも弱い男でした。けれど、その弱さ故に、愛おしい男でした。
一方のジョゼは、恒夫を出会ったことで、初めて愛する男と共に生きる喜びを味わった故に、以前よりもっともっと、深い孤独の中で生きる。
それでも、ジョゼは一粒の涙も見せずに生きていくのです。
深く傷つきながらも、それを引き受けて生きていこうとするジョゼ。
その姿は、苦しみや悲しみを乗り越えて生きていこうとする多くの女性に勇気を与える、大変秀逸な映画です。
女性の美しさとは、強さであるのだと、改めてそのことに気づかせてくれる映画なのです。
ジョゼと虎と魚たち