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たまにはゆっくりしたい・・・そんなあなたにおすすめしたい、観るだけで心も身体も休まる「かもめ食堂」
いつか北欧…それも、フィンランドに行ってみたい。ブラっと街を歩いたり、ムーミンゆかりの谷を散歩したり、港やマルシェ、それから食堂やカフェにも行ってみたい。北欧家具も気になるし…。
そんな夢を持つようになったのも、映画『かもめ食堂』を観てから。あの全体的にオフホワイトな落ち着いた空気感と、遠い国に住んでも結局、人と人なんだな…という世界観。何度も観て、この映画の持つ独特な個性にすっかりハマってしまいました。
『かもめ食堂』は日本で2006年3月に公開された作品。何とも面白いキャッチコピー「ハラゴシラエして歩くのだ」からも伝わってくるように、この映画には日本食を始めとする美味しそうな食べ物がたくさん登場します。舞台はフィンランドのヘルシンキ。かもめ食堂と名付けられた小さな食堂を経営するのは、小林聡美さん演じる“サチエ”という独身女性です。サチエの周りには、いつもゆっくりとした時間が流れています。この作品の空気感は彼女が作り上げていると言っても過言ではありません。動じず、いつもひょうひょうとしているのに、愛がある。自由気ままなのに、そのぬくもりがちゃんと人に届くのです。美味しいものは、文化も国も越えて、とにかく美味しい!食べている人の表情からそれが伝わってきます。サチエの作る料理は素朴であったかくて、優しい香り。朝はコーヒーやシナモンロールの香ばしい香りに誘われて、ぶらっと立ち寄りたくなります。お昼の定食は、トンカツや唐揚げなど、揚げたてが食べられます。かもめ食堂の看板料理はおにぎりで、シャケにおかか、梅ぼし。炊きたてのお米を手にとって、手早くにぎるリズムが優しくて、ほっこりします。
この映画に出てくる北欧の人々は、ちょっぴりシャイで茶目っ気があって、少し日本人に似てるかな?とも思います。そして、作品の中でサチエが言っているように“シャケ好き”な所も似ていますね。フィンランドの人々との新たな出会いと共に、たまたま知り合い仲良くなってゆく二人の日本人女性も登場します。片桐はいりさん演じる“ミドリ”、もたいまさこさん演じる“マサコ”です。この二人も独身女性で、それぞれの思いを持ちながらこの食堂にやってきます。フィンランドの人々と、この三人の日常の関わり合いはとても気持ちの良いものです。北欧まで来た旅人にとって、同じ日本語を話す人に会えるとどれほど安心するか。また日本人にとって、フィンランドの人たちが日本のごはんを美味しそうに食べている様子が、こんなにも嬉しいものなのかと、ひしひし感じました。
この映画の作成にあたっては、フィンランド政府の観光局が協力してくれたようです。おかげで“作りモノ”という感じがなく、リアルなフィンランドの生活が映し出されています。マルシェの様子や田舎街の風景が、どこを切り取っても生き生きしていて、美しいです。鳥の声や、みずみずしいそよ風まで、こちらに届いてきそうです。フィンランドの人々も、そこの家から出てきたご近所さん、という雰囲気で何とも自然体。加えて素晴らしいのは、かもめ食堂として使用している建物が、現地の食堂カハヴィラ スオミ(Kahvila SUOMI)からお借りした、実際の食堂だ、という所です。製作者のこだわりが伝わってきますね。余計にかもめ食堂のリアル感が増します。明るい色のスベスベした木で統一されたテーブルとイス、広々としたカウンターキッチンもオシャレで、使いやすそう。コーヒーソーサーにお砂糖、ミルクの入れ物と、手描きのメニュー表。お客様への出し方も可愛くて好きでした。映画の内装とはもちろん大きく異なるかもしれませんが、今でもその食堂は日本人観光客の密かな観光スポットとなっているそうなので、是非行ってみたいです!
派手な出来事が繰り広げられることはなく、素朴な日常の1ページか、2ページ。そういった当たり前の毎日に、ホッとする瞬間、幸せのエッセンスが、隠れているのかもしれません。当たり前のように繰り返す食事も、それなのかもしれません。そんな小さな幸せを、思い出させてくれる作品に出会えたことを嬉しく思います。見るだけで心が美しくなれるような、素敵な映画です。そしていつの日か、かもめ食堂の舞台であるフィンランドに足を運び、ゆったりと時間を過ごしてみたいものです。
かもめ食堂