読みもの
瀬戸内の春を告げるもの
大好きな沈丁花の香る季節になりました。
先日近くで見つけた河津桜が、咲き誇っているのを見つけ少しほっこり感じました。
関西出身の私にとって、瀬戸内の春の訪れを告げる風物詩があります。それは、3月になるとともに解禁になる、”いかなご”漁です。
”いかなご”とは、大阪湾から播磨灘にかけての瀬戸内の海で水揚げされる、スズキ目イカナゴ科の”いかなご”の稚魚のことです。
いかなごは、地域によって”こうなご”とも呼ばれます。
私が実家にいる頃は”いかなご”が獲れはじまると、「いかなごのくぎ煮」という佃煮を作るのが毎年の恒例行事でした。
毎日3キロくらいの”いかなご”と、新ショウガをみじん切りにしたものとを一緒に、お醤油とお砂糖などでコトコト煮詰めて「いかなごのくぎ煮」を作ります。この「いかなごのくぎ煮」を煮込む香りが、どのお家の台所からも香ってくる時期になると、春がきた!と感じるものです。
「いかなごのくぎ煮」というのは、佃煮にしたときに”いかなご”が釘のような形になるからだそうです。
毎年20キロほどの「いかなごのくぎ煮」を作って、全国のお友達に送っていたのですが、東京へ来てからは実家の父が毎年作って送ってくれていました。
ただ、5年ほど前から”いかなご”が不漁になってしまいました。
不漁の原因は、瀬戸内の海がきれいになりすぎたために、”いかなご”が獲れなくなってしまったそうです。
いまはもう父も料理ができなくなってしまったのですが、代わりにお友達のお母さまが”いかなごのくぎ煮”をつくって先日我が家へ送ってくれました。
新鮮な”いかなご”を使って、丁寧に作られた「いかなごのくぎ煮」はキラキラとあめ色に輝いて、甘じょっぱくショウガの香りがふんわり香る王道の「くぎ煮」のおいしさ。
久しぶりの故郷の味を味わうことができて、「春がやってきた!」と感じることができました。