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自分らしく生きよう|中世ヨーロッパを再現!繻 鳳花さんのお仕事とは
中世ヨーロッパ時代の料理やダンスなどを再現し、みんなで楽しむ歴史再現企画や、西洋ファンタジー関連の体験型イベントを企画する「コストマリー事務局」主宰の繻 鳳花(しゅ ほうか)さん。
月に数回のペースでイベントを開催するなど、他にない道を自分の力で切り開き、力強く進む彼女の、お仕事に対する想いを聞きました。
趣味から、生業に
このような"マニアック"な世界で活躍する繻さんは、何をきっかけに中世ヨーロッパ時代の民俗史に興味を持ったのでしょうか。
それは、多くの人が楽しむロールプレイングゲーム。実は彼女もそんなゲームが大好きな1人だったのだそう。
「ゲームをやっていると宿屋とかが出てくるんです。その中のお皿にのった料理を見て、これ自分でもできるのかな? と思ったんですよね。
それで少し調べてみたら、実際の中世ヨーロッパの生活はゲームの世界とは違うことがわかって、そこから興味を持ち始めました」
その後、趣味サークルからスタートし、十数年前には本格的に現在のようなイベント企画等の活動を開始したそう。まさに最近の言葉で言うと"好きなことで生きていく"。繻さんは時代の先駆けのような存在だったのかもしれません。
彼女のように西欧ファンタジーから、中世ヨーロッパに興味を持つ人は多いでしょう。
しかし、繻さんは他にあまり例を見ない"再現"に力を入れています。
繻さんが再現したローズハニークッキー(皿・右上)
当時は砂糖が高価だったためハチミツが多く入っており、貴族や王族に好まれたローズウォーターも使用されている。16世紀ごろに食べられていた。
「やっぱり料理って食べてみないとわからない。本や難しい論文はたくさんあるけれど、文字では言い表せない "体験" を大事にしたいんです」
行ってみて、食べてみて、やってみて、初めてわかること。スマホ1つで何でも見られる現代だからこそ "体験" によって自分の持つ概念が覆る経験をしてほしい、と語ります。
「蜜ロウキャンドルライブ」の様子
電気に囲まれる現代ではなかなかない、幻想的な雰囲気がとても素敵。
"好きなことで生きていく" といっても、イベントを企画・運営するのはとても大変。多方面の方と協力して1つのイベントを作り上げる必要があるため、こんな苦労も。
趣味が仕事。でも、失敗することもある
「人によって活動時間が違うため、ミーティングの時間が深夜になることもあります。ご多忙の方もいらっしゃるので、先方の都合に合わせてうまく調整を進めていくことも大事ですね」
「はまむら古楽祭2018」の野外練り歩き
衣装も相まって、中世にタイムスリップしたかのよう!
また集客に関しては、こんな難しさがあるそう。
「中世ヨーロッパ好きなど、ご興味のある方々は都合があえば来てくださりますが、それ以外の方にも幅広く来ていただけるよう、ホームページやSNS等を使って情報を拡散できるよう努力しています」
時期や季節に関しては、再現企画だからこその大変さも。
「食材が手に入らない時期は大変です。今は缶詰なんかもあって、年中手に入ると思いきや、そうではないんです。
缶詰は味がついているし質感も違ってしまう。やはり、なるべく当時と同じものを使って『こんな味なんだ』と知ってもらいたいんです」
実際に洋梨の缶詰を使って作った「洋梨のコンフォート」は失敗に終わったそうで、著書『中世ヨーロッパのレシピ』でもユーモラスにその様子を紹介されています。
著書『中世ヨーロッパのレシピ』(新紀元社)
ちなみに、食材の調達が最も難しいのは意外にも夏なのだとか。実りの多い季節とはいえ、再現に使える食材が採れなければ意味がないのですね。
このように、「中世」「ヨーロッパ」の「再現」だからこそ大変なことがあっても、そんな過去の時代だからこその "制限" を感じてほしいと話します。
そんな彼女にとって、仕事とは
「まず、仕事だと思ったことはありません(笑)。家にいても再現料理の試作などをずっとしているので、生活そのものですね。もちろん、趣味=仕事になるまでは、イベント当日に食材が届かずデパートを駆け回るなんていう失敗もたくさんありました。
でも、今はストレスフリーでやっています。研究するだけではなく、他の人にも伝えられるところが良いなと思います」
そう話す繻さんはとても溌剌とした表情で、日々の楽しさがこちらにも伝わってくるようでした。
「飽きることはありません。例えばレシピの中に、その時代になかった食材が含まれている。そこで、この食材はどこからきたのだろうと調べ始める。そうすると連鎖してどんどんいろんな料理を知ることができる。芋づる式に出てくるので、興味はつきません」
さらに、今後挑戦してみたいことを聞いてみると、
「昔から時間があればやっていた中世っぽいキャンプを定期的に開催したいですね。今は冬でも暖房があって暖かいところで過ごせるけど、昔はすごく寒かったはず。
そんな昔のままのスタイルの生活史全般をより深く追求していきたいです。制限を加えることで見出すことのできるものがあるはずです」
2タイプの中世のテント
11月にプライベートで行ったキャンプで、ご友人が建てたものだそう
最後に、今後もこのライフスタイルを続けますか? と聞いてみると、
「そうせざるを得ないでしょうね!(笑)」。
そう語る彼女の明るい笑顔は、とても印象的でした。
繻 鳳花 (しゅ ほうか)
中世西欧料理研究家。コストマリー事務局主宰。主に中世ヨーロッパ時代にあった料理・舞踏(民衆ダンス)の再現・アレンジを施した料理レシピ研究を中心に活動。近年は国内の各種屋外施設を利用した、自然との共存を主とした歴史再現企画・ファンタジーイベント企画に携わっている。著書『中世西欧料理指南』『中世西欧植物譚』シリーズ(同人誌)など。
Twitter @shuhohka
HP http://woodruff.press.ne.jp